ドルバスの殺害に向かっている二人はセイリュウのみならず

 ドルバスの殺害に向かっている二人はセイリュウのみならず、一味全員が敵に降った事も知らずにいた。そして又、今となってはドルバスを殺害する事は逆に身の破滅に直結するであろう事も露知らず、受けた命令を忠実に果たそうと急いでいた。ドルバスが捕われているとハンベエが知ったのは、後からやって来たモルフィネスの口からであった。「ふーん、ドルバスは大人しく捕われたのか。あいつらしいな。」モルフィネスから話を聞き、二人して王宮内に有るという地下牢に向かい歩く途中ハンベエが言った。「そうだな。と言うか、そもそも姫君の印形の押された軍令書に手向かう等反逆だぞ。ハンベエ。」「だったら、劍橋英語課程 お前も同罪じゃないか、モルフィネス。」「馬鹿な事を。私はただ王宮に起こり掛けた混乱を鎮めただけだ。姫君の命令書を携えた者達を有無を言わさず斬り棄てたのはハンベエだ。」「お話し中、悪いけどお。二人ともオイラの事忘れてんじゃないなお。」 並んで歩くハンベエとモルフィネスの後ろから声が掛かった。ロキである。走って来たらしく、少し息を切らせている。「ハンベエ、中の様子を見たらオイラを呼びに来てくれるんじゃなかったのお。」「あっ、悪りい。つい、忘れ・・・忘れるわけねえじゃねえか。もうちょっと後で呼びに行くつもりだった。」「忘れていたんだあ。もうハンベエと来たら、ダンビラ抜いたら後先無くなるんだからあ。」ぷーっとロキは頬を膨らませた。御立腹の様子である。「まあ、ロキ。そう責めるな。それよりハンベエは今反逆者になりかけてて大変なんだ。」モルフィネスがロキを見て言った。大変なんだと言う割には毟ろ気味良さげな表情に見えるのは僻目(ひがめ)であろうか。「何を言いやがる。」「しかし、そうだろう。姫君の命令書に恐れ入るどころか牙を剥いたのだから。」「王女様からどんな命令が出ていたのお?」「ドルバスやハンベエを捕らえよ、と言う内容の命令書だ。」とモルフィネスがロキに事情を説明した。それにしてもモルフィネス、ロキと一緒に王宮の門の外からハンベエとセイリュウのやり取りを窺っていたはずなのに、二人の会話を間近で聞いていたように詳しい。「ドルバス、ドルバスさんも捕まりそうになってるの?」「いや、既に捕われている。」「・・・。」「昨日、王宮に配備していた群狼隊兵士から私の所に『ドルバス捕われる』と一報が入ってな。」モルフィネスの一言に、ロキの頭を昨日の昼過ぎ王宮から方向か大急ぎで駆け去って行った兵士の姿がよぎった。(あれはそれをモルフィネスに伝えに行った伝令だったんだあ。)「私もセイリュウの動きは怪し過ぎると思ったんで、密かに兵士を五千人王宮周辺に配備して、取り敢えずゲッソリナに戻って来るハンベエと打ち合わせをして対策を練ろうと捜させたのだが。」とモルフィネスは此処で一旦言葉を切ってハンベエにチラリと目をやり、「この短気者はズカズカと独りで乗り込んで、セイリュウその他を撫で斬りにしてしまったというわけだ。」話しながらも三人も歩みを止めない。「王宮に有る地下牢は一カ所、そこの階段を下りた所だ。」モルフィネスは目の前の階段を指差した。魂消るような悲鳴が噴き上がったのは、モルフィネスが指を向けた丁度その時だ。氷の貴公子、沈着冷静の鉄仮面モルフィネスも悲鳴が聞こえた瞬間が瞬間だったせいであろう。筋金入りのスタイリストがビクリと体を震わせ、不格好なへっぴり腰で泡を食ったように階段を駆け降りようとした。「慌てなくていい。ドルバスの声じゃねえ。」ハンベエはモルフィネスの服の背中を掴むと無愛想に言った。果たしてハンベエ達がゆっくりと降りて行くと、そこで目にした光景は、二人の兵士がカタカタと歯を鳴らしながら尻餅をついている姿だった。兵士達の足元には投げ出された槍が転がっている。