」と薄ら笑いを浮かべて言った

」と薄ら笑いを浮かべて言った。妖艶でぞくりとするほどの艶っぽさであるが、この戦場では何やら化生(けしょう)の類いを連想させて不気味でもあった。袖摺り合うも多生の縁とか。どれ、このアタシが引導渡してあげるとするか。テンカンの発作でも起こしはしないかと心配になるほど、狂気錯乱した顔付きで口から泡を飛ばしながら、モスカは呪詛の言葉を吐き続けていた。やがて、ノーバーから使者がやって来た。この一大事に本人が飛んで来るかと思いきや、使者であった。モスカは怒りと苛立ちに身を震わせた。ブルブルと小刻みに顎を震わせ、今にもヒステリーの発作に狂いそうであった。 しかし、ステルポイジャンとその軍が消えた今、頼りは貴族達の兵ばかりであった。モスカは苛立ちを抑え、international school elementary 使者を引見した。使者は淡々とタゴロローム軍とステルポイジャン軍の戦いの帰趨を伝えた。それによれば、アカサカ山近くにおいて決戦が行われ、国王バブル七世、大将軍ステルポイジャン、四天王スザク、ビャッコ等ステルポイジャン軍の主立った将領はほとんど討ち死にし、残った兵士達は皆タゴロローム軍の軍門に降ったと言う事であった。「ガストランタはいかがした。」聞くだにおぞましい敗戦の報を憔悴した表情で聞いたモスカは辛うじて尋ねた。「ガストランタ将軍については消息不明の模様ですが、恐らくは戦死されたものと思われます。」使者はただ淡々と答えるのみであった。「ノーバーはいかがしておるのか。」「ノーバー閣下におかれては、今後の方寸(ほうすん)を他の貴族の方々と協議されております。」「協議じゃと・・・・・・わ、わらわを差し置いてか。」ピカッとモスカは狂気に彩られた蛇のような眼差しを使者に振り向けた。古代ギリシア神話に出て来る怪物メデューサと目を合わせた者は石に変わったと伝えられているが、モスカの眼差しを見た使者もその恐ろしい目付きに体を硬直させた。「軍議でございます故、太后陛下をお呼びしなかったのではないかと愚考いたしまする。それにタゴロローム軍の出方など詳しい事情もまだ明らかでない様子。話がはっきりした時点で我が主人から太后陛下に必ずや報告があるはずでございます。」使者は固まりながらもどうにかこうにかそう答えた。「ぬぬぬ。・・・・・・されば仕方ないのう。しかし、ノーバーに伝えよ。一区切りついたら、直ぐにわらわの前に顔に出すようにと。」「承りました。間違いなくお伝えいたします。」使者は答えるとそそくさと帰って行った。しかし、丸二日経ってもノーバーはモスカの前に姿を現さなかった。太后モスカは今にも気の狂わんばかりに苛立った風情でやはり自室をグルグルと歩き回っていた。そんな半気違い状態のモスカの所へ顔を出したのは執事のフーシエであった。「太后陛下。少し落ち着き下さい。そのように徒に心気を乱されるとお体にも障りまするぞ。」フーシエは恭しく頭を垂れがら穏やかな声で言った。両手で水差しとコップそして薬包みの乗った盆を捧げ持っている。「これが落ち着いておられようか。我が子フィルハンドラが、国王陛下バブル七世が弑(しい)されたのじゃぞ。わらわは夜も眠れぬ思いぞ。」「太后陛下のお悲しみは痛いほど分かります。されど、そのように激しくお嘆き遊ばされてはまずお体に障ります。此処に心を落ち着かせる薬を医師に調合させておりますれば、まずはこれをお飲みになられて少しお休み下さい。」「眠り薬か?」「はい、その効果も有ります。少しはお眠りになられた方が良いかと存じます。」「ふむ。」 長年仕えて来た執事の言葉にそれもそうかとモスカは大人しく薬を飲み、床についた。「夜の闇が煩わしい。燭台を明々とさせる為に、油をたんまりと用意しておくれ。」部屋を出ようとするフーシエにモスカはベッドの中から言った。薬の効き目は直ぐにモスカを眠りにつかせた。