「だから私、ちゃんと甲斐に自分の気持ちを伝えようと思ってます

「だから私、ちゃんと甲斐に自分の気持ちを伝えようと思ってます。そもそも、うまくいく可能性は低いかもしれないですけど……」そこまで口にしたところで、突然久我さんとの距離が縮まった。気付けば私は彼に抱き締められていた。「く、久我さん……?」「七瀬さんとならうまくいくと思ったんですけど……僕に対して気持ちがないなら、仕方ないですね。諦めます」ceg dapp れる久我さんの声は、どこか切なく苦しそうだった。「もっと早く、こうして抱き締めておけば良かった」「え……」「この手を掴んで離さなければ、多少強引だとしてもあなたの気持ちは僕に向いたかもしれない」「……」離して下さい、と言葉をかけようとしたところで、私と久我さんの元に近付いてくる一台の車が見えた。車のライトが眩しく、私は一瞬目を閉じた。そして再び目を開けると、止まった車の運転席から甲斐が飛び出してくる姿が見えたのだ。「甲斐……?」「残念、もう来ちゃったか」「え……」久我さんは、甲斐がここに来ることを知っていたのだろうか。彼は私を抱き締めていた腕を離し、私を見つめて微笑んだ。「すみません、僕は先に帰ります。七瀬さんは、彼に送ってもらって下さい」「え……」何が起きているのかわからず呆気に取られている私を残し、久我さんは自分の車の方に向かって行く。「七瀬!」私に駆け寄る甲斐の後ろには、なぜか蘭の姿もあった。「甲斐も蘭も……どうしてここに?」「お前、何でスマホ繋がらないんだよ。どこかに落とした?」「え?スマホはバッグの中に入れてあるけど……それより二人とも、どうして?」すると、先に口を開いたのは甲斐ではなく蘭だった。蘭は得意気に笑みを浮かべながら私に近付き、私だけに聞こえるぐらいの小さな声で囁いた。「依織、私に感謝してよ。あんたと甲斐の二人にとって最高のきっかけを私が作ってあげたんだからね」「待ってよ、何を言ってるのか意味が……」「じゃあ、頑張って。私はこのまま久我さんに送ってもらうから」蘭は意気揚々と久我さんの元へと近付いていき、二人で何かを話した後、そのまま彼の車の助手席に乗り込み車は去って行った。「……」一体、何が起きているのだろう。状況がいまいち掴めないけれど、間違いなく今、私の目の前には甲斐がいる。ここ最近ずっと私のことを避けていた甲斐が、少しも目を逸らさず私のことを見つめている。ただそれだけで、涙が出そうになった。自分の気持ちを伝えるには、今しかないと思った。

「甲斐、私……」「ここ最近、俺ずっとお前のこと避けてた。……本当に、ごめん」やっぱり、私の勘違いではなかったのだ。勘違いであれば良いのにと、何度も思った。甲斐が私を避ける理由は、私の言動にあったのだろうか。それとも、真白さんが関わっているのだろうか。「もしかして……真白さんと付き合うことになったの?」「え?」「だから私のこと、避けてたのかなって。薄々気付いてはいたの。青柳も、甲斐と真白さんの仲がいい感じだって言ってたし」「七瀬、何言って……」「でも私は……!」甲斐のことが、好き。そう告げようとしたところで、強めに私の言葉を制止しようとする甲斐の言葉が耳に響いた。「違うって!お前を避けてたのは、真白が関係してるんじゃなくて……」甲斐は焦ったように髪をくしゃっとかき上げた後、一瞬伏せた目を再度私に向けた。「七瀬が熱出したとき……キスしようとしたら七瀬が泣いたから」「え……」「拒絶されたと思ったんだよ。本当は、泣くほど嫌だったんじゃないかって……そう思ったら、普通に話しかけられなくなった」甲斐にそんな風に思わせてしまっていたなんて、私は少しも気付いていなかった。