ロキが少し驚いて言った。

ロキが少し驚いて言った。「仕事上、仕方のない時も有るのさ。」「ふーん。・・・そんな事より、ハンベエが来たんだから、今度こそ何しに来たか。教えてよお。ハンベエ、ボーンさん、大分前にこの部屋にやって来たんだけど、何しに来たのか、オイラに教えてくれないんだよお。ハンベエが来たら話すって。」「ふむ。」 ハンベエは手近の椅子を引き寄せてボーンの前に座った。ボーンは慌てて足を下ろして座り直した。「いとも簡単に司令部の俺の部屋まで入って来られるようじゃ、警備を見直さなきゃならんかなあ。」 ハンベエは、ivf成功率その気もないのに言った。「いや、警備はこんなもんだろう。さして悪い方じゃないと思うぜ。俺も一応、腕利きの諜報員だから。」「全く、ボーンやイザベラにかかった日には、警備なんて何の用も為さんな。」「それは、ハンベエに対してだって同様だろ。」「で、何しに来たんだ。」「国王毒殺の真相その他の情報を伝えに。」「友達の誼(よしみ)でわざわざかい。」「ああ、そうだ。・・・と言いたいところだが、宰相閣下の命令だ。」 どうやら、ロキへの金の相談は後回しにしてボーンの話を聞かなければならないようだ。ハンベエは身を乗り出し、両手で机に頬杖をついた。人の行儀の悪さを咎めない代わりに、ハンベエも行儀良くはない。 ボーンはサイレント・キッチンが掴んだ国王毒殺の顛末を包み無くハンベエに伝えた。そしてその後、王妃を通じての要請に貴族達が応じ、その兵士で王宮が固められたので、ラシャレーがサイレント・キッチンを率いてボルマンスクに去った事も。「それじゃあ、ルノーってトンマのせいで、ラシャレーは足を取られた事になるのか。尤も、この俺も無関係じゃないが。」 ボーンの話が一段落した時点で、ハンベエがぼやいた。「そうだな。ステルポイジャン側の行動も半ば突発的なものだったから、予測できなかったとも云える。」「ステルポイジャンが関与してなかったのは間違い無いのか。」「掴み得た情報からはそうなるな。」「そうか。何と無くそんな気がしていたが。」「しかし、その後も王妃に荷担してるんだから、同罪だぜ。さてと、俺の方もハンベエに聞いて置くよう命じられている事が有る。」. 「ほう。」「質問その一、王女様の安否。」「まだこっちには来ていないが、イザベラが護衛に付いているから、まずは無事にタゴロロームに逃げて来るはずだ。」「イザベラ?・・・どうなってるんだ?」「何だか知らないが、王女とイザベラが仲良しになってるのさ。その事は宰相のラシャレーは知ってるはずだ。」「聞いてねえ。まあ、いい。質問その二、ハンベエは王女をステルポイジャン達の手から守るつもりは有るのか?」「・・・ステルポイジャン達には渡しはしねえよ。」「だとすれば、ステルポイジャン達と戦争だな。今現在奴らに従った貴族達の兵士が5万、南方守備軍が12万だから、総勢17万か。ま、頑張れ。」「・・・。ボルマンスクの兵隊は何人くらいいるんだ?」「7万かな。兵を募れば、後3万くらい集められるだろう。」「俺達の敵対がはっきりした場合、ステルポイジャン達はタゴロロームとボルマンスク、どっちを先に攻めると思う?」「俺の見立てでは、タゴロロームだな。先ず弱い方から手早く潰そうとするだろう。ま、頑張れ。」

「・・・。」

「そう言えば、貴族達がステルポイジャンに付いたと言ったが、近衛兵団を率いるルノー将軍の去就はまだ分かってないな。」「ふん、そのルノーって奴には色々絡まれたが、こっちは我慢して生かしておいてやったんだから、ステルポイジャンに付かれたんじゃ、当て外れだぜ。」現時点では、南方守備軍は漸くゲッソリナに到着したところだった。『ラシャレー浴場』が破壊され、近衛兵団が消滅するのは少し後の事である。当然、ボーンもハンベエもまだ知らぬ事であった。ルノー将軍、ハンベエが深謀遠慮でわざわざ手心を加えたようであるが、この後、ステルポイジャン軍の猛攻の前に泡雪のように消えてしまう事になる。どっちにしろ、当て外れな奴だった。